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新潟家庭裁判所 昭和54年(少)1278号 決定 1979年10月01日

少年 R・I(昭三五・八・五生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

本件送致事実の要旨は、

少年は、

1  昭和五四年一月下旬の午後九時三〇分ころ、新潟市○○○○町××××番地×に駐車中の普通乗用自動車内において、A子(昭和三七年五月四日生)が一八歳未満であることを知りながら、同女に対し、接吻をし、その乳房をもてあそぶなどし、もつて青少年に対し、わいせつな行為をし

2  同年三月上旬の午後一〇時ころ、同市○○町×××番地××○○石油給油所に駐車中の普通乗用自動車内において、前記A子が一八歳未満であることを知りながら、同女に対し、接吻をし、その乳房をもてあそぶなどし、もつて青少年に対し、わいせつな行為をしたものである。

というのである。

本件記録によれば、少年が上記の各行為に出たことを認めることができる。

ところで、新潟県青少年健全育成条例二〇条一項は、「何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」と規定している。同項は、青少年が心身未成熟であり、不良な性的行為により悪影響を受けやすいことから、青少年の情操を害する反倫理的、反道徳的な性的行為から青少年を保護し、青少年の健全な成長を企図して規定されたものと解され、同項にいう「わいせつな行為」もその趣旨から解釈されなければならない。

公衆の面前において青少年に対し、公然と性的な行為に及ぶこと、見ず知らずの者同志あるいは不特定の者の間における性的遊戯、青少年の無思慮、無分別に乗じた性的行為など、相互に愛情もなく、人格的結びつきを前提としない行為が本項に該当するものと解することは相当であるが、結婚の意思を前提にしなくとも、相互に愛情を持ち、人格的交流を前提とし、かつその愛情表現として相当程度の範囲における行為についてまで本条例によつて禁ぜられていると解することは相当でない。

そこで、本件について検討するに、送致記録によれば、少年は当時一八歳、上記A子は当時一六歳で、いずれも新潟市内の定時制高校に通学していたものであり、同人らは昭和五四年一月初めころ知り合い、お互いに異性として意識し、好意を抱き、日曜日あるいは下校後、デートを重ね、その際には接吻を交す関係にあつたこと、その後、同年三月下旬ころからは、デートもまれとなり、同年六月には同女から少年に交祭を辞退する旨申し入れたことが認められる。少年及び同女とも、捜査官に対し、愛情が湧かなかつた、愛情がなかつた旨供述しているが、上記の交際の経過に照らしてみれば、愛情と呼ぶかどうかはともかく、お互いに好意を抱いていたことは明らかであり、そのような人格的交流を前提として行われた接吻、乳房の愛撫の程度の行為が、本条例にいう「わいせつな行為」に該当すると解することは相当でない。

よつて、本件については、非行なしとして、少年法一九条一項により、審判を開始しないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 浅香紀久雄)

〔参考〕 新潟県青少年健全育成条例(抄)

第二〇条第一項何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。

第二九条第一項第二〇条第一項又は第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処する。第一四条この章以下において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一青少年一八歳に達するまでの者(婚姻した女子を除く。)をいう。

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